私は、会社員を10年ほどやっていた。
そこで色んな上司に会ったが、
いちばん参考になったのは、自分と同じINTPの班長のやり方である。
班長のやり方は、【3位戦法】というものだった。(私が勝手に命名)
当時、私は大きめのプロジェクトに参加していて、
そのプロジェクトは12個の「班」から構成されていたのだが、
私の班長のやり方をみていると、
【他のすべての班にとって、我が班との取引量が3位以内】
を目指しているかのようなスタイルを取っていた。
つまり、決して特定の班とズブズブの親密関係にはならないが、
しかし相手にとって「そこそこの存在感」であろうとする姿勢だ。
このやり方の効果は、すさまじかった。
ズブズブ関係を避けることで、非能率な感情衝突や馴れ合いを排除しつつ、
我が班は総合取引量で【圧倒的な1位】を獲得し続けたのである。
各班から3位を獲得するための方法は、まあわかりやすいものだった。
それは「関係の薄い班からの依頼を優先する」というものである。
たとえば相手から見て我が班が2位のところと7位のところがあれば、
7位の班を優先して対応するのである。
これを繰り返していれば、すべての相手にとって我が班の順位が上がっていき、
相手の頭に「我が班の存在が思い浮かぶ場面」が増える(これ重要)。
結果として、我が班への依頼が増えていくというわけである。
(そんなわけで、3位という数字は目標ではなく、単なる結果であった。
厳密には平均では3位には届かず、3~4位くらいだったかもしれない。
でも世間では普通はライバルが11社もないので、普通は3位以内なら
だいたいOKなんじゃないかと考え、私は「3位戦法」と呼んでいる)
私は班長のシンプルなやり方に深い感銘を受け、今もかなり意識して真似している。
この通りにやっていれば、土着商売でシェアが下位に落ちることは、まずない。
というか、狭い地域だと、勝手に1位になってしまうような感じさえある。
私としては、総合1位になると妬まれたり邪魔されたりしてめんどくさいので、
ぶっちゃけ2位くらいでいるほうがお得なのではないかと思っているのだが、
何にせよ、私はこの班長から「シェアの取り方」を学んだのである。
班長のおかげで、我が班のシェアは上がり、必然的に班員はみな活躍し、
それぞれ専門家として、なんというか「顔が売れた状態」になっていった。
会社員というのは、ある意味「自分が商品」の商売であるから、
社内で顔が売れると何かと得をする。
そういう意味で、ありがたい班長であった。
だが班長自身は、ちっとも出世せずに、55歳の第1次定年で
「もうお腹いっぱい」と言って、さっさと退職してしまった。
班長は、自分の顔を売ることには、ぜんぜん興味がなかったのだ。
班長の性格は、「与える人」の側面が強かった。
同じINTPでも、班長は私とは少し違うタイプだった。
(班長は物静かで、INTP-Tだったように見えた)
和風づくりの、落ち着いた雰囲気の家だった。
そして娘さんや奥さんなどの家族がたいへん幸せそうなのを見て、
私は「だろうね」と思った。
私は、班長の作戦は真似しまくっているが、
班長の人生をそっくりマネしたいとは思わなかった。
それは、班長に対して、
「退職した後、何するの? 退屈してるんじゃないの?」
と思ったからである。
退屈嫌いの私としては、そういうのは不安でしょうがない。
考えただけでも恐ろしい・・・。
と、まあそんな感じで、
班長はよくわからない人だったが、おもしろい人だった。
会社では目立たない人だったが、私にとってはNo1のお手本であった。
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こういうありがたい上司がいた一方で、うんこみたいな上司もいた。
私が最初に当たったプロジェクトのリーダーがそれだ。
そのオッサンは、ESFPだった。
いつも怒鳴っていて、普段は「パトラッシュを叩く金物屋」に似ている。
しかし上司の前では豹変し、ドン引きするくらいへこへことゴマをするのである。
入社1年目だった私は、ある日、このオッサンと初めて会話をした。
そして昼休みになったとき、オッサンは私に「パンを買ってきてくれ」と言った。
まあ食堂に行くついでなので買ってきてあげたのだが、
するとこのオッサンは、パン代を払おうとしなかった。
私がパン代の200円を請求すると、
「おいおい、お前、俺から金とる気か?」
とか
「俺によく思われとけば、損はないぞ?」
とか言って、
なにやら関係ない話を持ち出しながら、
何としても200円の支払いを逃れようとするのである。
会社に入って間もない私としては、こんな漫画みたいなおっさんが
同じ会社に存在するとは夢にも思わなかったので、かなりの衝撃だった。
とりあえず
「全然よく思ってくれなくていいから、パン代200円を払ってください。
払わないなら、今から労組へ行って来ます。
あと、もう二度とあなたのパンは買ってきてあげません。」
と言うと、おっさんはしぶしぶ金を払ったが、
かなり不満げで、私に恨みを持ったようであった。
このオッサンとの戦いは、その後数年続いた。
私は序盤こそ押され気味だったが、すぐに必勝法を編み出し、
△△キラーと呼ばれた(△△はオッサンの名前)。
私はこのオッサンとの対決を通じて、口げんかの必勝法を学んだのだ。
それは、
【外形的には先にキレたほうが負けだが、内面的には先にキレたほうが勝つ】
というものだ。
脅しに弱い人は、相手に「キレられる」「怒鳴られる」のが怖くて、
ついついキレさせないようにと、変に気を遣ってしまう。
そうすると、相手はますます調子に乗ってしまうのである。
このような悪循環を断つ方法は、簡単だ。
相手がキレた瞬間に、自分も相手以上にキレまくり、怒鳴りまくればよいのである。
そのためには、「先に内面でキレておく」必要がある。
こちらが怒っていない時に相手にいきなりキレられると、誰でもびっくりしてしまう。
しかしいつでもキレる準備をしておけば、相手が怒鳴った瞬間、間髪入れずに
相手の2倍の音量で怒鳴りまくることができるので、相手がびっくりするのである。
この方法は、おもしろいほど効果的であった。
オッサンは、自分が怒鳴られるのが、すごく嫌だったのだ。
また、もともとおかしなことを言っているのはオッサンのほうなので、
こうして大騒ぎにしてやれば、困るのはオッサンのほうなのである。
まあそんなわけで、
たいして役に立つ知識とも言えないが、世の中にはクズはいっぱいいるので、
この「内面先ギレ法」は、頭の隅に憶えておいてもよいかもしれない。
(特に、会社を辞めて独立する人には、ちょっと役立つかもしれない)
当時の私は、こういう幼稚園児みたいなオッサンが世の中にはゴロゴロいる
ということを、長く穏やかな高等教育のうちに、だいぶ忘れかけていた。
思い返せば、小学校や中学校では、こういう人間は、普通にいっぱいいたのだ。
しかし高校以降は、多くのINTPは、暴力野郎が少なそうな高校へ進学する。
そしていつの間にか、脅しや暴力への免疫が消えかけている場合が多い。
(なお私がいた会社でも、このオッサンほどアホな奴に出会うことは、以後なかった)
会社を去り、土着自営の道を歩むということは、
こういうアホに「日常的に出会う」ということなのだ。
社会の姿は、あなたがいた高校ではなく、あなたがいた中学校のレベルに非常に近い。
そんな野生のサバンナみたいなところへ行くにあたり、
一定の心準備をさせてくれたという意味では、
このオッサンとの対決の日々は、まあ役に立ったのかもしれない。